「除染情報手渡しの会」を開催 ~福島では今、何が起こっているの? 現地のリアルな除染情報に触れました~

IMG_49746月7日10時30分から、谷根千・駒込・光源寺隊が主催して「除染情報手渡しの会」を開きました。会場は光源寺の蓮華堂、文京区社会福祉協議会と〈谷中の家〉の協力を得て、3名の参加者とスタッフ2名の計5名が、権上かおるさん(環境カウンセラー・NGO酸性雨調査研究会)のお話を聞きました。
開催当日は、交通機関に支障が出ることも予想されるほどの激しい雨だったため参加できなかった方もいましたが、〈手渡しの会〉のネーミングのとおり、聞き手が話し手とごく近く接することができる会となり、予定を30分超えた12時半近くまで、熱心な質疑応答の時間も持てました。福島の除染情報手渡し会レジメ

大手メディアは伝えない、避難者たちも知らない除染の現状

IMG_4971この日の話し手、権上かおるさんは2011年の東日本大震災後、南相馬市の地元業者の方々と独自の除染方法を研究開発し実用に移してきました。さらに、福島県内各地を訪れて除染の現状をつぶさに見て来た経験から、この3年あまりの様子を、写真やデータをまじえて説明。福島から避難されている方やおちゃっぺ会にボランティアとして参加している福島県出身の方などに、現地のリアルな除染情報を〈手渡し〉してくれました。
震災から3年を経て、新聞やテレビなどのマスメディアでは原発事故の報道は非常に少なくなり、除染情報などはごくわずか。その実態はほとんど伺い知ることができません。現地では、どのように、どのぐらい除染が行われているのか、進んでいるのか。放射能汚染濃度はどのように低減しているのかいないのか…。
実は権上さんは、3月29日のおちゃっぺ会に飛び入りで参加したのですが、その際福島からの避難者の方々と話して、避難者に除染の実際ついての正確な情報が伝わっていないことに驚きました。そして、「自分が関わり見聞きしたなまの情報をぜひ避難者の皆さんに伝えたい」と申し出てくれたのです。
折もおり、おちゃっぺ会では昨年当たりから、一時帰宅した自宅の様子など、多くの方が地元の話をしばしば話されるようになり、自宅のある各自治体や県などが行う住宅除染についてなども話題に上ることが増えていたところでした。
そこで、この両者をつないで、必要とされている情報を必要としている方に手渡すように届けたいと谷根千・駒込・光源寺隊では〈除染情報手渡しの会〉を企画しました。

■除染土の黒いコンテナバッグ累々 豊かな里山の光景は変わり果てて

権上さんは、福島に通った経験から撮影したり集めたりしてきた写真を使って、実際に行われている除染の様子を次々に映像で紹介しました。撮影されたのは、南相馬市、飯舘村などなど、国が主体になって除染を行うと決めた重点区域が主です。
水を霧吹きで拭いて紙タオルで拭き取るという屋根の除染の様子
住宅への放射能の影響を低減するために裏山や屋敷林を伐採する除染の様子
汚染された田畑の表土を剥ぎ取った後に雑草予防として山砂をかぶせた荒涼たる景色
その山砂を、山を崩して採掘している様子
除染で出た土や樹木などを詰めた黒いフレキシブルコンテナバッグ(通称フレコンバッグ)が田圃に累々と積み上がっている様子
秋の黄金の実りかと見まがうセイタカアワダチソウに征服されてしまった田圃
どれも目を覆いたくなるような光景です。美しい山や川、住民が手を掛けて丹念に作り上げた豊かな里山の風景が恐ろしいほど無残に壊されていることがひと目でわかります。

■「ゼネコンの道路除染用特殊車両は2億円」にただビックリ

道路の除染の様子は、権上さんが関わってきた除染方法(モミガラと加酸化水素水を使った安価で一定程度の効果もあがる独自の方法)と、何億もする特殊車両を使った大手ゼネコンの方法を対比して紹介されました。
舗装道路に水をシャワー散水→汚染水をバキューム車で回収→回収した水をモミガラを入れた槽に移しセシウムなどの放射性物質を漉しとる装置……などの作業一連
上記の除染方法に対し、大手ゼネコンが使っている高圧シャワー散水&汚染水回収の除染を一台で行う特殊車両を使った舗装道路除染の様子
後者の特殊車両は1台2億円と聞き、聞いている5人は皆大きくため息をつきました。
前者の濾過槽は約400万円。調達しやすく安価なモミガラを使っている…という対照には驚くほかありません。高額な特殊車両は「本来の価格がいくらするのか」よりも、「売り手の言い値だろう」という疑問を、参加者たちはみんな口にしました。
山林除染に関しては権上さんは、放射能の当初の汚染から3年3カ月の間に、雨や雪や風などの天候変化により山林から里へ汚染物質が流れ込んだり、河川や湖沼への流入で放射能の移行が起こるなど「ウェザリング効果」が、現在の土地土地の放射線量に大きく影響していると指摘します。そして、「広大な山林除染は困難」「帰還できない区域は確かに存在する」と、残念ながらと言葉を添えて語りました。
権上さんがまとめた配布資料には、福島県内の除染の進捗状況や、除染と帰還政策の予定表、南相馬市内における除染後の線量の下がり具合の比較、帰還政策が陰に沢山の矛盾を孕んで進められている現状、中間貯蔵施設のプラン地図などまで、コンパクトにかつ分かりやすく整理されています。

■除染は不可欠な生活対応。でも限界も。怒りや悲しみとは切り離す

以上のような話の後、権上さんはまとめとして次のようなことを語りました。
今現在も福島で暮らす人たちがおり、線量はその土地土地、しかもわずかな距離の違いで異なる。したがって、「福島には住めない」といった十把一絡げの言葉は間違いで暴力的。
人間が暮らすのに不適当な高線量の場所は存在し、その事実を受け止めねばならない。
その一方で、暮らす人がいる以上、生活対応としての除染は今後も続けるべき。ただ、今後も劇的な線量低下が期待できるかどうかは疑問。除染には限界がある。
3年間の除染の現状を見てきた中で知りえた真偽。それらを述べた後で、「意図的なごまかしには注意を払い、汚染地域をひと括りに見ないで放射線量を調べることが大切」という言葉は、とても示唆に富んでいるものです。
さらに、「原発事故への怒りや悲しみと生活対応は切り離して臨むべきこと」という指摘は、避難者や現地で暮らす人だけでなく、福島以外に住む人間にとっても説得力のある言葉です。原発事故やその影響とこれからも長きに亘って接していくために、今の日本に住む人間にとっては、誰にも必要な心構えやあり方だと教えられました。
当日配布された資料は、新聞などでは判りにくい情報も見やすいグラフや図表にまとめられており、自宅や町の除染が身近な避難者の方々のみならず、福島の行方に関心を持って見守っている方々にも参考になるものと思われますので、PDFで添付します。
震災から4年目の今年、おにぎり握りから始まった谷根千・駒込・光源寺隊の支援は、炊き出し、食料や物資支援、作業支援、資金提供、イベント開催などへと続いてきました。
この会では、〈支援〉が情報を手渡す事へと形や内容を変えて来ていること=求められている支援や差し出すべき支援が、形も内容も大きく変化してきていることを実感しました。

           (レポート/菊池京子)

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