2012年5月17日 おそれて、こわがらず / 権上かおる

みなさま
権上です。

●若狭湾の活断層と原発位置
大飯原発停止にあたって、活断層のことをよく耳にしたと思います。
ご専門は、自治・行政である市村先生は、足尾山地の地質を永く研究しておられ、この経験から若狭湾についてコメントをいただきました。既知の資料を組み合わせて、活断層の集中を門外漢にもよくわかる資料を作っていただきました。あまりの多さに息をのみます。地図の下の文は、市村先生のコメントです。

大飯原発の再稼働の動きがあるので、その地質的な安全性について、地質図を睨んで、タダの地質趣味なのですが、及ばずながら、その地質的な安全性について考えました。

若狭湾は、構造盆地というか、断層系が網の目になっていて地塊のブロックを動かし、現在陥没運動をしており、「陥没湾」として知られています。原子炉は、わざわざその地塊の縁の崖や断層谷に作られています。

若狭湾の陥没運動には、過去の大地震の事例(天正地震1586、寛文地震1662、北丹後地震1927)をみると、地震の際、方向の違う、交差する断層が何本も連動しているという特徴があります。それぞれの断層によって役割が異なっており、上下にずれたり、左右にずれたりしました。天正地震は、東海地方側から若狭湾までの大変動でした。

関電等が今年保安院の指示に従って行った再検討は、連なる数本の断層が連動したら(これは普通にみれば一本の断層のようにみえるもののことです。)、どのくらいの規模(ガル)の地震を起こすか、というものでした。「連動地震」があっても700ガル程度で、現在の大飯の原子炉は安全だという結論を出したようです。しかし、若狭湾のこうした過去の起震構造からすれば疑問を感じます。

大飯原発の岬の海底を通っている熊川断層は、京都から続く花折断層、三方五湖を作る三方断層・日向断層、敦賀断層などと連動して動いている大規模な共役断層群の一部です。この断層は、若狭湾の陥没を作る断層系の一つなので、交差する断層を考慮して、全体の破壊力の規模を把握すべきだと思います。ここにあるのは日本列島を形成している主役の断層群であり、列島の東西圧縮のストレスが解消する近畿トライアングル、近畿三角帯の頂点をなすところです。

その若狭湾の中でも主要な断層の真上や突き当たり、あるいはすぐそばに、敦賀原発、もんじゅ、美浜原発、大飯原発が作られています。

敦賀原発が、浦底断層の作る高度差100mの断層谷の断層の上にあることには唖然とするしかないですが、大飯原発もまた、大島半島という奇妙な場所にあります。半島付け根側はオフィオライトの基底である超塩基性岩の塊(エンスタタイトの輝石岩が一部にありますからかなり深部のものでしょう。)であり、半島の先端側はそれより浅いところで出来た塩基性岩です。両者は整合ではなく断層で接しており、本来離れていた別個の岩体であるようです。原発のある谷間もまた、その塩基性岩がずれてできたものであるようにみえ、付加体特有のデュープレックス構造がさらに細かく分断されているようなのです。左横ずれの断層が屈曲している熊川断層が動くとき、その北西側の地塊がこの半島を強烈に押すことになりますから、大飯原発がはめ込まれている半島の小さな谷のリニアメントの地面も破壊されて、上下、左右にずれるおそれがあるのではないかと怖れます。原発の北側の山だけが岬状に海の中に延びているのが気になります。それは北と南の岩体は違う動きをしていることを示唆しているように思えるからです。

若狭湾では、長い断層が起こす揺れだけが問題なのではなく、①共役断層が同時に動いたらどうなるか、②断層の近くでは地盤が壊れることによる被害がどうなるか、が問題だと思います。もちろん津波もですが。

近畿トライアングルの概念は、1962には出されていたのですから、当事者には、このような地域にはそもそも原発を作らないという判断をしてほしかったと思います。

●スイスが学んだ福島事故39の教訓
大飯再稼働にあたり、滋賀、京都両知事は7つの要請を国に対して行っていますが、国際的にはもっと多くの提起がなされていると吉田文和(北大)先生が紹介しています。
http://astand.asahi.com/magazine/wrscience/2012051600001.html

以下、箇条書き部分のみ

(1) 学習する組織を発展させない欠陥(国内及び国際的事故の経験が十分に考察されていない)
(2) 貧弱な企業文化(事業者は、偽造と隠蔽の企業文化のもとにあるように見える)
(3) 経済的配慮から安全を制限した(企業は2010年の年報においてコスト節約プログラムで設備検査の回数を減らしたとのべている)
(4) 保安院が経済産業省に依存している欠陥(保安院が経済産業省のもとにあり、利益相反であり、決定構造の不透明性がある)
(5) 全体システムにおける検査の構造的欠陥(検査の役割と責任が不明確)
(6) 不十分な検査の深さ(検査機関は、設備の建設と運転に当たり、地震と津波などの安全を表面的にしか検査しなかったという大きな怠慢)
(7) 企業の安全文化の欠如(安全検査がなおざりにされ、偽造された、欠陥のあるメンテナンス管理)
(8) 意思決定の欠陥(企業、政府、検査機関が不十分な意思疎通で決定が遅れた)
(9) 非常事態に対する不十分な準備(日本では、非常事態に対する準備がボランタリーベースであった。既存の緊急対策計画は多くの欠陥。外部の非常対策が節約され、全体のインフラが破壊された)
(10)スタッフへの過大な要求(過酷事故を緩和する手段が実施されず、長期に放出)
(11)規制上の欠陥(過酷事故への対策が法律に基づいて適切に規制されなかった)
(12)非常事態計画の遅れ(地域の危機管理が準備されず、関係者の連絡なし)
(13)不十分な放射線防護手段
(14)住民に対する不十分な情報
(15)集団主義の危険性(リスクを過小評価し、警告と事実を無視し、集団主義、自己満足、自信過剰に陥っていた)
(16)過酷な作業環境
(17)放射能汚染を無視
(18)過酷事故への不十分な準備
(19)建物構造の不備
(20)外部の安全監視にコミットできない
(21)不適切で不正確な事業者の行為
(22)非常用手段の回復の失敗
(23)電気設備の不備
(24)局部的な環境条件悪化のために、非常用手段が作動せず
(25)連絡手段の不足不備
(26)ベントの問題
(27)情報の混乱
(28)海水注入の遅れ
(29)水素爆発への予防がない
(30)非常事態に対する設備と要員の不足
(31)外部電源問題
(32)津波で重要設備の安全確保できず
(33)冷却の不足、使用済み核燃料の問題
(34)冷却水の不足
(35)ホウ素の不足
(36)事故のもとでパッシブ・システム
(37)環境監視装置の不備
(38)海水汚染
(39)環境中の放射能汚染

以上

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